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見たまま感想:風立ちぬ,ジブリとエロチシズム[8/1]

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風立ちぬ,見てきました。

 

監督:宮崎駿

出演:庵野秀明

   瀧本美織

   西島秀俊ほか

 

あらすじ

いつか空を飛ぶ美しい飛行機をつくる,と少年のころから夢見てきた堀越二郎は,東京に向かうさなか,関東大震災に遭い,娘とその従者を助ける。のちに再会した二人は,お互いに強く惹かれながらも,娘 菜穂子の結核が完治するまでは結婚しないと決める。二郎は名古屋で国から命じられた航空機の製作に邁進し,菜穂子は山奥の療養所で結核の治療に専念していた。時代が刻一刻と戦争に向かうさなか,二郎からの手紙を受け取った菜穂子は病院を飛び出し,二郎のもとに向かう…

 

 

感想

 

愛です。ジブリでこんなにも大胆に,率直に,とても純粋に愛を表現したものがあったでしょうか。

いろんな感想があちこちにあげられているので,私が「個人的な恋愛観」「個人的な夫婦観」をもとに,じーんときたところだけ感想を書きます。

 

・物語は,創作である

堀越二郎という実在の人物をベースに,宮崎駿が創作した物語です。堀越二郎には菜穂子という妻はいません。つまり,堀越二郎の功績と,宮崎駿の恋愛小説を合体させ,堀辰雄の作品を織りまぜたのが「風立ちぬ」です。

 

・「美しい」ということ,庵野秀明

主人公,堀越二郎には,庵野秀明が声優として参加しています。これが個人的にはとてもよかったと思っています。というのは,劇中の堀越二郎はもう,近くにいたらちょっとウザくなるかもしれない(笑)というくらいの純朴で素直で汚れのない(汚れについて見ないふりをする,そういうことが無意識にできて罪の意識がない,これはかなりウザいです)人物です。

これを,「声優」として演技指導や訓練という「出来上がってしまったもの」に「侵されていない」,ましてや俳優でもない,実にまっさらな庵野秀明を起用することで,セリフや言動がものすごくストレートに表現され,人物像がストレートに頭に入り込んできます。西島秀俊瀧本美織ががんばって支えたからこそ,純朴さや純粋さが守られている,と言うと身も蓋もないですね笑。

 

劇中,堀越二郎は何度も「美しい」と呟きます。代表するものが「サバの骨」です。サバの骨なんて美しいと普通思いません。ただの骨です。ありすぎて邪魔なくらいです。でも堀越二郎にとっては,その曲線,形状が航空機の翼の骨に用いたいと思う美しさなのです。

この独特の「美しい」という価値観は,菜穂子と堀越二郎の関係にも通じます。菜穂子は山を駆け下り,病の体を汽車におしこめやっとのことで二郎に会いに来ます。二郎と菜穂子はそのまま結婚し,短い新婚生活を送ります。

 

結核というのは,「伝染る病」でした。そして菜穂子は「いつ死んでも…」という病状です。

ですが菜穂子と二郎は何度もキスをし,一緒に寝て,一緒の部屋で生活をし,菜穂子は新婚初夜も捧げ,二郎の帰りを寝床で待ちます。

 

 

・菜穂子とタバコ

 

そんな菜穂子のそばで,二郎は家に帰ってもずっと仕事をしています。手を握って(赤面)仕事をするわけですが,二郎はヘビースモーカーなので(当時にしてはヘビーではなかったのかもしれません),「吸いたいから手を離してもいい?」というと菜穂子は「ここで吸って」とわがままを言うのです。で,二郎は「結核患者」のそばで「タバコを吸う」という常識では「ガマンしろ!」というような行為をします。

 

これには賛否両論あるようですが,私はとても美しいと思いました。

二人には,どう抗ってもそれほど長い未来はないのです。病の体をひきずって二郎のもとに駆け落ちした菜穂子と,運命の人ともいうべき人を妻として純粋に愛する二郎には,1分1秒もおしいのです。病の人だとしても,それが伝染るとしても,そして病状が悪くなるとしてもそばにいて,一緒の時間を過ごしたい。ともすればおなじモノに身を蝕まれても本望。とても健気で,美しいと思う反面,かなり辛い場面でした。

 

同時に,とても「昭和」らしい,とも思いました。

 

結婚するならああいう,燃えて朽ちるような結婚がいいです。

 

 

 

・二郎の罪

二郎は,その技術が優れ世界からも絶賛されながら,のちに特攻にも使用された「ゼロ戦」を設計します。戦争のために発注された殺戮兵器を,「航空機を作る夢」の具現化として必死に形にしようとするのです。

 

この映画を見てて気になったのは,「聞きたい人の声しか聞こえない」ということです。大衆の声,いわゆる「ガヤ」はあるシーンをのぞきすべて無声です。

二郎は関東大震災のさなか,多くの人が苦しむ中で菜穂子を助け,その後は学校の図書館の前でぼーっとするだけ。多くの人が貧しい生活の中,大手企業の二郎は何一つ不自由がない。あるとすれば,国が貧しくて良い部品がつくれないことが不満(航空機を通して物事を測る)。多くの人が貧しい中,ふと見つけた子供たちにパンを分けようとするが拒否される。後にそれを偽善だと怒られる。

 

そして,二郎が完成させた航空機が,多くの人を殺すことについて,最後に二郎はふと夢のなかですこし後悔する。

 

この映画は「エゴ」の塊ともいえますが,その「エゴ」が美しくもあり,儚くもあるのです。その「エゴ」こそ「生きる」ことなのかもしれませんが,今の自分にはまだ消化しきれていないところがある,というのが正直なところです。

 

・個人的見解

 

今の自分にはとても辛かったけどとても好き!

 

 

★★★★★

 

@ユナイテッド豊洲8番