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みたまま感想:愛,アムール(AMOUR)[3/9]

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おそるべき爺,ハネケ。

 

監督:ミヒャエル・ハネケ

主演:ジャン=ルイ・トラティニャン

   エマニュエル・リバ

   イザベル・ユペール

 

あらすじ

フランス,パリの高級アパルトマンに住む老夫婦,ジョルジュとアンヌ。音楽家として成功を収めた二人は,悠々自適な老後を過ごしていた。しかし,ある日アンヌに突然訪れた病。ジョルジュはアンヌを自宅で介護するが…

 

・もう怖いですね。ハネケ爺は怖くてしょうがないですよ。

・劇場の8割がこの登場人物とほぼ同世代だったのではないでしょうか。つまり60代〜80代。「安定」と「余白」。「介護」「老い」という自分の終着点への覚悟と,そして熟した「夫婦」という形を知っている人たち。

・ハネケって言ったら,お金持ちの家族をなんの目的もなく虐殺するだけの「ファニーゲーム」とか,若い教え子に恋するこころと裏腹に自分の女性性を拒んであらゆる変態行為に及ぶ「ピアニスト」とか(このピアニスト役のイザベルユペールが出てくるのがまた笑),ゆるやかに一家心中に向かう破滅を描いた「セブンスコンチネント」,田舎の閉鎖的農村で起きた事件をすごく静かに描いた「白いリボン」とか。そういうね,アンダーでヴァイオレンスで後味最低なジャンルをつきすすむ爺なんですよ。

・派手ではないけど美人で,モダンなメイドがシックなご馳走に毒を丁寧に持ってくれる,それを白いクロスしながら眼の前で見てるのに毒も厭わず食べてしまう,気づいたときにはとても幸せなんだけどとても苦しい,そういう味わい。

・そういう爺が爺なりに「老々介護」と「孤独(これは夫婦だけど夫婦の孤独)死」というものをあぶりだした作品を,同じ世代が見に来て同調させる,というのはあまりにも刺激的だし残酷です。

・冒頭のシーンでもあるように,観客席を写すあのシーンは,「ほらあなたたちも」ということなのか。もっと解釈があるように感じます。

・彼らの家以外の場所のショットはオープニングのあそこだけ。帰宅後のシーンからはずっと自宅のシーンが続く。隔離なのか,拒絶か。

・「セブンスコンチネント」に似ている感触でした。

・何が前触れでもなく訪れる突然の病と日常生活の変化,できることができなくなることのどうやっても抗えない空虚。そういうものがどんどんどんどん記憶の片隅に重なっていって,突然訪れる最期。

・ちょっと西川美和かよと思ったりもして。積もり積もって,レイヤーが重なって…っていう。西川美和は意識してるのか?(そんなこととっくに誰か解説してくれてると思うけど)

 

 

・タイトルの「愛」,原題Amourも愛。愛とは何か。人と人が,死の最後まで寄り添うとは一体どれほど残酷で耐え難い試練か。どこかのだれかが撮ったらお涙頂戴になるところを,こんなにもいたたまれない形に仕上げる,そこが巨匠たるところなんでしょう。

 

・痴呆症と老々介護ってものが身近にあるので,なおさらきつかったです。でも見てよかった。

 

評価

★★★★☆

 

おすすめ客層

・夫婦

・老夫婦

・認知症の人を身近に持つ人

・介護関係の人

 

おすすめない客層

・ハネケの作風がダメな人

・盛り上がりや緩急が激しい映画が好きな人

・オチがはっきりしてはっきりしてないとダメな人

 

銀座テアトルシネマ